『第4回関東東海ブロック
  精神障害者就業支援セミナー(愛知セミナー)報告』

  平成18年2月25日(土) 26日(日) at あいち健康プラザ

 昨年7月の障害者雇用促進法の改正により、精神障害者も雇用率の算定対象に加えられたことは周知の通りです。しかし、これまでの雇用率の低さから見て、法制度の改正だけで精神障害のある人の雇用環境が改善されるとも思えません。障害者雇用促進法の改正を、実際に精神障害のある人の雇用促進に繋げていく具体的な対策がこれからは重要です。
 そのような中開催された「精神障害者就業支援セミナー」には医療・福祉機関のみならず、企業・事業主の方々や当事者・家族の方々も参加され、2日間でのべ300名の参加がありました。福智クリニックからも、福智寿彦院長と中村晋児PSWがシンポジストとして、精神障害のある人の就業に向けた提言を発信しました。主な講演・シンポジウムの内容は次のようなものになっています。


2月25日(土)

 * 講演「障害者雇用促進法改正の経緯と改正内容」
   講師:厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課調査官 深田 聡 氏

 ・障害者雇用促進法の改正には3つの大きな柱があります。

1.精神障害者に対する雇用の強化
  ・法定雇用率算定
  ・プライバシーに配慮した障害者の把握確認のためのガイドライン作成

2.在宅就業者に対する支援
  ・在宅就業障害者に仕事を発注する企業に対し、障害者雇用納付金制度において、
   特例調整金・特例報奨金を支給

3.障害者福祉施策との有機的な連携
  ・福祉施設や作業所の機能分化と再編成
  ・福祉的就労から一般雇用への移行を促進


 確かに法整備は成されましたが、それだけで精神障害のある人の雇用状況に大きな変化があるわけではありません。絵に描いた餅にしないためには具体的にどのような対策を取っていくのか、それが今後重要な課題です。

 


* 当事者発表「精神障害があっても働ける」
 ・現在様々な職場で働いている5名の当事者の方々が、自らの就労体験についてお話してくださいました。自らの病や社会の無理解を越えて現在働いている当事者の生の声であり、企業・事業主の方々や我々精神科医療・福祉に関わるものにとって、改めて考えさせられる内容でした。

* 事業主シンポジウム「条件が合えば雇用はできる」
  座長:企画委員・品川公共職業安定所六本木庁舎
      障害者雇用支援プランナー 富田 正志 氏
  シンポジスト:有限会社 進工舎 代表取締役社長 田中 誠 様
        :富士ソフト企画株式会社 代表取締役社長 早津 宗彦 様
                                各社員の方々

 ・実際に精神障害のある人を雇用している企業の事業主様によるシンポジウムもおこなわれました。精神障害者採用に至った経緯、企業が雇用するために必要なこと、事業所独自の取り組みなど、をお話していただきました。

 ・企業から見た雇用できる条件
   安定している(休まない)
   病識があり、服薬管理ができる
   本人のやる気
   自分の病気を自分で説明できる

 ・事前実習は必要だが、ある程度進んだら特別なフォローは必要ない
   →実習でその人の適正や可能性を見る
   →企業は独自でフォローしていけるようにならなくてはならない
   →社内で専門のジョブカウンセラーを設置など

 ・企業と福祉が有機的な連携を
  →福祉が自らハードルを高くしている(どこまで準備すれば・・)
  →就職したらバトンタッチではなく、ロープの和を持つ人を増やしていく
  →医療はずっとかかわり続ける

 ・精神障害者の雇用はそれなりの配慮も必要になるので、今後は特例子会社中心になっていくのではないか


前例のないことをやっていかなければ精神障害者の雇用は進まない。それを言い出せるような社会・企業環境を!


2月26日(日)
*メンタルヘルスに関するシンポジウム
 シンポジスト:「主治医、産業医の立場」
       赤坂メンタルクリニック院長 長尾 博司 先生
      「企業内メンタルヘルス推進者の立場」
       アイシン健康保険組合常務理事 栗原 壮一郎 氏
      「企業内保健師の立場」
       株式会社JTEKT(ジェイテクト) 杉本 日出子 氏
      「公的支援実践者の立場」
       愛知県障害者職業センター 金澤 恭子 氏

  ・グローバル化、情報化で企業も生き残りをかけている。
   →仕事量が膨大化、人間関係が悪化
  ・心の病のオープン化が周囲の理解を得て再発防止につながる
  ・心に不調をきたした勤労者がいる職場では経済効率・生産性が低下
  ・リスクマネジメントの必要性
  ・企業内メンタルヘルス組織をつくり、短期→中期の目標を作る
  ・職場でのヘルスカウンセリングの実施
   →コミュニケーションの活性化
  ・心に不調をきたした者を、スムーズに精神科受診につなげる
   →プライバシーに配慮、抵抗感をなくすため就業規定に明示するなど
  ・個人の障害の程度が変動し、自己表現が苦手な精神障害者
   →新規雇用という点ではなかなか難しい
   →中途発病者をいかに雇用し続けていくか
  ・労働能力の判定は職場との連携なくしては不可能→産業医
  ・軽減短縮労働によるリハビリ出勤は不可欠(産業医の立場)
  ・給与などの問題などにより難しい(企業の立場)→就業規則に入れるなどの対策を

 


*提言シンポジウム「多様な就労支援実践と障害者雇用推進に向けての提言」
 シンポジスト:福智クリニック院長 福智 寿彦 先生
      福智クリニックPSW  中村 晋児 氏
      精神障害者地域生活支援センターそよかぜ所長 青木 邦子 氏

 ・医療機関、生活支援センターによる精神障害のある人の就業支援の理念と実践、今後の雇用の推進に向けた“名古屋”から全国への提言ということで、様々な角度からの提言がなされました。主な内容は次の通りです。

 ・福智寿彦先生からは、『就労支援と生活支援を一緒に考えること』の重要さ、『精神障害者の雇用がなぜ進まないのか』という現状の分析、『精神科医療・福祉従事者の意識改革』の必要性、『福智クリニック関連機関の現状や問題点』、『精神障害のある人の就労支援の今後の展望』、そして、就労支援にもっとも大切なのは『楽しさと夢を持つこと』という、現状の厳しさ・至らなさを的確に射抜く、しかし、前向きな提言をいただきました。

(福智寿彦先生レジュメはこちら)

 ・中村晋児PSWからは、NPO法人福心によるCAFE GALLERY寸心の経営やクリニックDCメンバーを対象とした職場実習といった支援の事例をもとに、『デイケアや作業所における就労支援と一般就労の間にある大きなギャップを埋めるためのステップとして、より社会に近い環境でおこなう就労支援』の紹介や、『精神障害者を対象とした人材紹介会社VERITAS』の説明、『今いる現場を飛び出して外へ外へと支援の輪を広げていこう』という呼びかけがおこなわれました。

(中村晋児氏レジュメはこちら)

 ・青木邦子氏からは、これまでの就業支援における豊富な経験から、『企業の事を知らない福祉職員への苦言』や『福祉職員の意識改革』の必要性、『社会資源を利用した就業支援』や、『障害特性に配慮した定着支援』の実例、『広いアンテナとネットワークを持ち、戦略的に職業リハビリテーションをおこなう重要性』などについて、非常にエネルギッシュな提言をいただきました。

 ・また、精神障害者雇用に関する取り組みについて、県内の大手企業、官公庁に聞き取った結果を公表しました。

 多くの企業は精神障害者の雇用について今後何とかしなくてはならないという認識はあるものの、目の前の法定雇用率を満たすために、そして、2年後に控えた除外率の撤廃に対応するために、現在雇用し、ノウハウのある身体障害者の雇用に重点を置いています。また、個別指導→計画策定→企業名公表という流れの中で、ようやく知的障害者雇用に取り組み始めた企業も少なくありません。また、長時間労働が難しい、安定した生活が難しいのではという労働力に対する懸念や、継続してサポートが受けられるのかという不安の声も聞かれました。しかし、職場のメンタルヘルス対策等、心の健康に着目する企業が増える中、企業も精神障害者雇用を無視しているのではなく、今後考えるべき課題として、どう取り組んでいくか思案している段階なのです。

 

 精神障害者雇用を取り巻く現状は確かに厳しいものです。しかし、そういった現状を知ること、そして、そういった現状についてこれだけ多くの人が集まり、何とかしようと考えたことに意味があり、大きな前進だったと思います。このセミナーに参加した皆さんが、これからの支援の中で、何ができるか、何をすべきかというヒントを持って帰ってくれたなら幸いです。