認知行動的アプローチを用いた目標設定の支援
1. ニーズを把握する
「その人が生活を営む上で必要な要素のうち、満たされていないと感じているもの」、
「私はこのように生きたい!」という切実な願い(長期目標)
○ニーズを捉える作業の難しさ
・「支援を受けることでどのようになりたいか」、「援助に期待することは何か」と問いかけて、いつもニーズの把握ができるか?
・相手の訴え = ニーズとは限らない
例:「働きたい」という言葉の真意は?
・「家族に申し訳ない」が真意だった場合→「家族にもっと理解してほしい」がニーズ
・「同年代の友人と出会いたい」が真意だった場合→「友達が欲しい」がニーズ
いずれも、就労を達成するだけではニーズは満たされない
・相手が意思表示することが難しい場合は?
「どのようになりたいか」を思い描けない相手に対しては?
→「行動アセスメント」を活用すると有効な場合がある
2. 行動アセスメント
○問題を具体的行動に置き換える
行動アセスメントでは、相手の問題を行動に置きかえ、その行動がどのような環境によって維持・強化されているかを探ることで、具体的な支援を考え、問題の解決を図っていく。ここで言う行動とは、
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・視覚的に観察可能なもの(「自発性がない」ではなく「呼びかけたときだけプログラムに参加する」等) ・「しない」のではなく「する」もの(「食事を食べない」ではなく「食事を散らかしてしまう」等) ・数値化できるもの(頻度、時間等) ・人によってイメージが異ならない(「元気がない」という状態は、人によっては「おとなしい」と映るかもしれない。協力して支援していく上では、共通の解釈ができることが重要) |
=「抽象的行動」ではなく「具体的行動」をアセスメントする
・不眠(抽象的)→ 眠るまで布団の中で考え事をする(具体的)
・注意散漫(抽象的)→ 作業中にミスをする(具体的) etc...
解決したい問題が明らかになったら、問題が起こりやすい状況でどのような行動をしやすいのかを捉えていく
相手:不安で仕方がないんです。
援助者:不安で仕方がないとき、どのようなことをしてしまいますか?
相手:母親に、これでよかったのか何度も確認します。
(具体的行動:母親に確認する)
相手:職場にいると緊張してしまうんです。
援助者:緊張すると、職場でどのようなことをしてしまうんですか? あるいは、できなくなりますか?
相手:パソコンの入力作業が続けられなくなります。
援助者:パソコンの入力をしない代わりにどんなことをしてしまうんですか?
相手:緊張が治まるまで、トイレに駆け込んでしばらくこもってしまいます。
(具体的行動:トイレにこもる)
○行動を維持させる要因を捉える
以下の項目について特定し、問題行動を減らすための援助を検討する。
(その際、行動アセスメントシートを用いることで、セルフモニタリングがしやすくなる)
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行動のきっかけ |
いつ、どこで、誰といるときに、何をしているときに起こるか? |
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行動の結果 |
「その行動を行なうことで、何を得ているのか(強化子)・避けているのか(弱化子)」 |
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行動の役割 |
相手にとって望ましい何かの獲得 or 望ましくない何かの回避 (ひとつの行動に対し、いくつかの役割が備わっていることが多い) |
○行動アセスメントに基づいて支援計画を立てる
・解消したい行動が起こらないようにするためには、どのようにきっかけを整える必要があるか?
・解消したい行動と同じ役割をもった「適応行動」の形成を目標とする
3. 「その気になれる」目標の立て方 (ダイエットを例にして…)
1) 具体的な目標を立てる
「カロリーを控えめにしよう」、「運動しよう」…そのために何をすればいいのかが不明確
達成度を明確にするためにも、何をどうするのか、具体的に決める(「ご飯は茶碗一杯にする」等)
2) できそうな目標を立てる
3) 生活と結びついた目標を立てる
「○○kgになるまでウォーキングをする」…具体的ではあるが、ピンとこない場合もある
生活に結びついた身近な目標で、目標達成に向けた相手の意欲を高めることができる
(「1年前に買ったズボンが穿けるようになるまでウォーキングする」等)
4) 「しない」よりも「する」目標を立てる
「夜にお菓子を食べない」…「しない」目標は我慢を強いるので、実行が大変になる
「夕食後はすぐに歯を磨く」…「する」目標は実行したことによる達成感を味わうことができる
5) 他人ではなく自分を主語にして目標を立てる
6) 定期的に続けられる目標を立てる
7) 自分で決めた目標を立てる
援助者が提案するのではなく、自分で決めてもらう
理想的な目標でも、実行する相手が必要性を感じなければ意味がない
4. 目標がうまくたてられないときは
抽象的な困難感を具体的な目標に置き換えることが難しい人もいる。
相手が問題の大きさに圧倒されて、何を問題としたら良いかわからず途方にくれてしまう人や、「どうせ問題なんて解決できっこない」と否定的に考えてしまって目標が浮かばない人もいる。
・行動に置き換えられるような質問
目標を尋ねると、抽象的で漠然とした内容を答える人(「憂鬱な気分が晴れたらいい」、「もっとやる気が出るようにしたい」、「今よりも幸せになりたい」等)がいるが、これは「ニーズ」であって「目標」ではない。また、漠然とした内容では支援のアイディアが浮かばない。ところが私たちは漠然としたニーズを聞き出したところで「目標を捉えた」と思い込んでしまい、質問を終えてしまうことが少なくない。
【目標設定のための質問】
・「そのためには、どんなことができたらよいですか?」
・「そのためには、生活がどのように変わればよいですか?」
・「今の状態を10点満点で○点とすると、その点数が1点改善すると何ができていると思いますか?」
援助者:あなたは、支援を受けることでどのようになりたいですか?
相手:不安が無くなればいいと思います(ニーズ)。とにかく、毎日が不安で、とてもつらい(問題)。
援助者:不安を何とかしたいんですね。不安が無くなると、どんなことができるようになりますか?
相手:わかりません。不安が無くなったときのことなんか想像すらできません。
援助者:かなり不安に圧倒された感じなんですね。普段の不安感を10点満点で評価すると、何点ぐらいですか?10点がもっとも不安が強い状態だとして。
相手:絶対、10点です。
援助者:じゃあ、そこから1点下がって9点になったとしたら、どんなことができていると思いますか?どんなことができると「1点下がった」と思えそうですか?
相手:そうですね。近くのスーパーに混雑していない時間帯に買い物に行けているかもしれません。
援助者:なるほど。では、当面の目標を「近くのスーパーに、混雑していない時間に買い物に行く」ということにしませんか。
・漠然とした大きな問題を小さく分ける
問題を大きく捉えてしまい、解決への意欲を失っている場合、問題を小さく分けることで、複雑で解決できないと思い込んでいた問題が、何とかなりそうだと思え、見通しも立ちやすくなる。具体的な目標を考えやすくなるとともに、問題解決に向けてより積極的に取り組めるようになる。
このとき、問題を小さく分けて対応する意義として「毎日の小さな変化の積み重ねが、大きな変化をもたらす」ということを伝えることが肝要となる。
・思いつくまま紙に書いてもらう
問題や目標について難しく考えすぎたり、問題解決へ向けた自分の能力を低く見積もっているために具体的な目標が浮かばないことがある。
【技法】
・どんなことができるようになりたいか、できる・できないは別にして思いつくまま紙に書いてもらう。
(できるかできないかの判断を先延ばしにすることで、目標が浮かびやすくなることをねらう)
・いくつかの目標を書き上げたところで、それらをひとつひとつ切り分ける。
・その中から一番難しそうなもの、一番簡単そうなものを、互いの間隔を空けて上下に並べてもらう。
・残りの紙から、中程度の難しさの目標を、目標を記した上下の紙の間に置いてもらう。
・さらに残った紙を、上中下の目標と見比べながら間に置いていく。
→難易度順に並んだ目標リストを完成させることで、問題はすべて同じように困難なわけではなく、解決できそうなものもあるという理解を促し、問題解決に向けて取り組もうとする意欲を高める。
(援助者にとっても、どこから支援を始めると良いかが分かる)
5. 支援の効果を定期的に評価する
・達成基準を評価する意義
評価によりこれまでの支援が有効だとわかれば、相手にとっても援助者にとってもモチベーションの向上につながる
・行動のはじまりとおわりが明確である場合
「定期服薬した回数」、「○○プログラムに参加した回数」など、「○○が△回できるようになった」
頻度ではなく、どのくらいの時間行動が続いたか、所要時間を計測する場合もある
・行動のはじまりとおわりが明確でない場合…インターバル記録法(笑顔、常同行動など)
通常30秒以下で間隔を設定し、その間に行動が1度でもみられたら「+」と記録し、みられなければ「−」と記録する(生じた行動が10回でも1回でも「+」の数は1つとする)
【引用文献】
認知行動療法による対人援助スキルアップ・マニュアル,竹田伸也(2010),遠見書房