デイケアにおけるスポーツプログラム導入の
精神分裂病患者に対する効果

村手  恵子*
福智  寿彦*
野々山 智子*
川出 英行*
加藤 文恵*
兼本 浩祐**
*福智クリニック
[〒466-0849 名古屋市昭和区東畑町2−30−3
пF052‐732‐8300]
**愛知医科大学精神神経科 [〒480-1195 愛知県愛知郡長久手町岩作雁又21]

  

抄録

 精神科デイケア通所中の精神分裂病患者を対象に、スポーツプログラムが社会生活能力の改善及び社会参加の促進においてどのような効果があるかを検討した。対象となったのは、平成13年4月から平成14年4月までの1年間のうち6ヶ月以上デイケアに継続通所した83名であった。社会生活能力の評価にはLASMIを用いて、社会参加は就労状況を調査することによって分析した。その結果、デイケア患者全体にE(持続性・安定性)尺度における改善がみられた。W(労働・課題の遂行)尺度において、スポーツプログラム参加の効果がみられ、プログラムに参加していない患者に6ヵ月後の変化がなかったのに対し、参加している患者には有意な改善が認められた。また、スポーツプログラム参加の有無によって、就労状況に有意な差および改善は認められなかったが、一部患者でスポーツプログラムが就労において有効な役割を果たすことが示唆された。

はじめに

 精神障害者のリハビリテーションを目的とする精神科デイケアは、社会復帰の準備段階としての機能、再発予防としての機能、精神障害者の居場所としての機能などさまざまな役割を担っている。これらの目的を果たす一助として、デイケアには多様なプログラムが存在する。その中でもスポーツは多くの施設でとり入れられているが、これまで精神科デイケアの治療的効果について論じたものは数多く認められるものの1,3,8,10,12)、デイケアにおけるスポーツプログラムの効果を検討したものは限られたものしかない。
精神障害者に対するスポーツの治療的な効果に関する研究としては、長期入院分裂病患者への身体運動能力低下や合併症予防を目的としたもの9)、運動療法が社会性や情緒などの精神機能の改善をもたらすとした報告5)、運動プログラムにより活動性が改善されたという報告7)、スポーツが注意の障害に効果をもたらすとした報告13,14)などがあるが、一貫したものは得られていない。しかし、これまで健常者の精神的健康に関する運動の効果が認められてきているように11)、精神障害者に対する運動の効果についても、今後、継続的に様々な視点からの実証的なアプローチがなされることが望まれる。
そこで本研究では、デイケアにおけるスポーツプログラムの実施が特に社会生活能力の改善及び社会参加の促進においてどのような効果があるかを検討した。当院併設のデイケアではスポーツプログラムとしてソフトボール、卓球、テニスが行われており、これらへの参加を通してもたらされた治療効果を報告する。

T.対象と方法

1.対象

 対象は平成13年4月1日より平成14年4月1日までの1年間に当院デイケアに通所した精神分裂病患者のうち6ヶ月以上継続して通所したものである。対象者はスポーツプログラム参加の有無・程度により群分けした。当院で行われているスポーツプログラムいずれかへの1年間の参加率が50%以上のものを高参加群(以下H群とする)、10%以上50%未満を低参加群(以下L群とする)、10%未満と参加しないものを無参加群(以下N群とする)とした。

2.方法

@)社会生活能力の評価


 社会生活能力は精神障害者社会生活評価尺度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill:LASMI4))によって評価した。LASMIは5つの下位尺度から構成されている。このうち「D/日常生活」、「I/対人関係」、「W/労働または課題の遂行」の3つの下位尺度は、社会生活能力の技能領域を評価し、「E/持続性・安定性」は継時的評価を、「R/自己認識」は心理的側面を評価するものである。「D」「I」「W」は過去1ヶ月間の典型的な行動を評価し、「E」は過去1年間の社会適応状況の持続性・安定性を評価し、「R」では過去1ヶ月の言動を評価する。
 各下位項目は評価項目ごとに0点の「問題なし」から4点の「たいへん問題がある。助言や援助を受け付けず、改善が困難である」まで5段階のアンカーポイントが設定されている。評点が低いほど社会生活能力が高いことを示す。各下位尺度に含まれる項目の合計点を項目数で除した平均点をLASMI下位尺度得点とした。
 評価は、評価者が直接日常の行動観察をすることによって行うが、家族や援助者などからの情報や対象者との面接も補助手段として用いられる。LASMIは評価手続きが具体的・操作的に定義されており、情報の収集法も規定しているために、評価者間での信頼性が高いことが確認されている2)。
 今回の評価は、デイケア利用時を中心に、日常生活やプログラム場面での行動観察に基づき、看護婦、精神科ソーシャルワーカー、臨床心理士のうち複数の評価者による合議のもとで行われた。
 評価は、平成13年の研究開始時とその6ヶ月後に行い、スポーツ参加頻度により群分けした3群間で初回と6ヶ月後のLASMI下位尺度得点の変化について比較、検討した。比較には分散分析を用いた。


A)社会参加状況の評価 

 今回社会参加の評価として、就労状況を検討することとした。平成13年4月時点と平成14年4月時点で各対象者の就労状況を調査し、スポーツプログラム参加の程度による就労状況の比較を行った。就労しているものが少数であったため、スポーツ参加高群(H群)と低群(L群)とをまとめてスポーツ参加群とし、スポーツ無参加群との2群間で直接確率法により比較を行った。

U.結果

1) 対象者について

 今回の研究の対象となったのは、男性61名、女性22名の計83名であった。研究開始時点における対象者の臨床的背景および特徴を表1に示した。対象者全体の平均年齢は37.20±12.14(平均±標準偏差)歳であった。また、平均発病年齢は24.06±6.94歳、罹病期間平均は13.14±9.27歳であった。平均通算入院回数は1.35±1.89回、平均通算入院期間12.28±35.73月であった。各要因について一元配置の分散分析を行ったところ、羅病期間において群間に有意な差が認められた(F(2,80)=4.16 p<0.05)。LSD法を用いた多重比較の結果、N群がL群に比べ有意に羅病期間が長かった(Mse=79.80 p<0.05)。その他の因子では各群で統計学的に有意な差は認められなかった。

2) スポーツプログラム参加による社会生活能力の変化

 各対象者の本研究開始時、6ヶ月後のLASMI下位尺度得点の平均値と標準偏差を表2に示す。研究開始時点でのスポーツ高参加群(H群)・低参加群(L群)・無参加群(N群)の各群のLASMI各下位尺度得点について1要因分散分析を行ったところ、有意な差は認められなかった。
 次に、各群の初回LASMI下位尺度と6ヶ月後のLASMI下位尺度との比較を2要因分散分析を用いて行った。結果、E尺度(持続性・安定性)において期間の主効果のみが有意であり(F(1,80)=5.45  p<.05)、各群関係なく全対象者において6ヵ月後のE尺度得点に有意な改善が認められた。また、W尺度(労働・課題の遂行)では、交互作用が有意であった(F(2,80)=4.19 p<0.05)。そこで、各水準ごとに単純主効果を分析したところ、水準間で有意な差が認められた。LSD法による多重比較の結果、H群、L群ともに研究開始時にはN群との間でW尺度に有意差を認めなかったのに対し、6ヶ月後には各群ともにN群と比べて有意に改善されていることが明らかになった(Mse=0.44 p<0.05)。N群の得点は変化が見られないのに対し、H群、L群では有意にW尺度が改善した。
その他、D尺度(日常生活)、I尺度(対人関係)、R尺度(自己認識)においての分析では、各要因の主効果、交互作用は有意ではなかった。

3) 就労状況の変化

 スポーツ参加の有無による就労人数の変化を表3に示した。平成13年4月の初回調査時に、就労していた人は83名中8名(9.6%)であった。そのうち、スポーツ参加群は5名(6.0%)、無参加群は3名(3.6%)であった。1年後の平成14年4月時点には、83名中21名(25.3%)が就労しており、内訳は参加群15名(18.1%)、無参加群6名(7.2%)であった。就労状況の変化については、平成13年4月時点で就労しておらず、1年後に就労に結びついていたものを新就労者、1年経過後も無職のままかあるいは就労状況に変化がない場合と職を失ったものを無変化・失職者として示した。新就労者は14名で、スポーツ参加群は56名中11名(19.6%)、無参加群は、27名中3名(11.1%)であった。これらについて、Fisherの直接確率法を用いて差の検定を行ったところ、いずれも両群に統計的に有意な差は認められなかった。
以上のように、就労状況はスポーツ参加群においての割合が高く、増加もしていたが、統計的に有意な差ではなかった。しかし、スポーツ参加群の中に、スポーツプログラムへの参加が特に就労に結びついたと思われる症例が認められたため、次に示した。

<症例1> 20代後半男性。24歳時、精神分裂病発症により仕事を退職。1年間自宅で過ごす。26歳時、ボランティアをはじめ、後に就労。夜勤を始めたストレスを機に脱抑制状態となり職場解雇され、日中寝てばかりとなったため、デイケア入所。自分の病気を認めたくない気持ちが強くあり、入所当初はデイケアのメンバーとして過ごすよりもスタッフとしての仕事を手伝おうとしがちであった。他メンバーにも上手く馴染めず、対人関係に苦手意識を持っていた。スポーツプログラムに参加するようになった当初も周囲の状況に応じた会話や行動をとれず、時に他メンバーに対して暴言を吐いていた。しかし、卓球の練習コーチの役割を持つと、人を指導したりサポートしたりすることが自分にはむいていると認識するようになった。また、スタッフのメンバーへの接し方から、自分なりに他者とのコミュニケーションの技術を習得するようにもなった。徐々に本来の持ち味が出て自信を取り戻していく中で、4ヶ月後、以前経験した事のある仕事に復帰し、徐々に仕事を増やしていき、週5日続けられるようになったため、9ヵ月後デイケア退所した。

<症例2> 20代後半女性。精神分裂病。中卒後9年間、数カ所で販売業に就いていた。24歳頃より2年ほど自宅に閉じこもりの生活。他人の視線が怖くて外出できず、布団の中にもぐって家族とも話をしなくなっていた。25歳時、バイトの面接を受け採用されたが、電車でいこうとしたものの気持ち悪くて通えず、押入れに閉じこもる。26歳時、デイケア入所となるが、緊張が強くて集団にとけこめず、独りで家の外に1m以上でられない状態のため母親と一緒でないと来所できず、送り迎えをしてもらって通所。当初は、デイケアでメンバーとの交流はほとんどできなかった。しかし、彼女の得意なテニスや料理に参加する中で徐々に他者との交流が増えていった。以前経験のあったテニスではメンバーからの試合や打ち合いの誘いも多く、ひっぱりだことなる程で、生き生きと参加できるようになった。そんな中、入所から4ヶ月後、始めてデイケアに一人で電車にのって来所し、テニスに参加。それと同時に来所日数もそれまでの母の都合にあわせた週1日から4〜5日に増え、積極的な他者との関わりも出現し始めた。6ヶ月後からバイトを始め、徐々にバイト日を増やした後も安定して続いているため2年後デイケア退所となった。

V.考察

 精神科デイケアのひとつの目的として、しばしば再発を繰り返す精神分裂病患者を地域生活に密着した医療を行うことによって、安定した社会生活をおくれるようにすることがあげられる。本研究では、スポーツ参加が社会生活能力、就労に対してどのような効果をもたらすのかを検討し、いくつかの示唆が得られた。
 社会生活能力では、研究開始時点でのLASMIの各下位尺度に各群間で有意な差は認められず、各群の生活障害は当初同程度のものであった。しかし、LASMI下位尺度の6ヶ月後の変化をみた結果では、スポーツプログラム参加の有無に関わらず、全対象者にE尺度(持続性・安定性)での改善が認められた。デイケアに通うことで対象者の社会適応状況が向上し、安定した結果であると考えられる。外来治療群との比較で精神科デイケア施行群のみで生活経過が安定したとの大山ら(1997)8)の報告もあり、デイケアが精神障害者の社会生活の安定と回復に重要な役割を果たしているといえるだろう。
 スポーツ参加が生活障害の改善に果たす効果は、W尺度(労働・課題の遂行)で認められた。スポーツに参加しない群に改善がみられなかったのに対し、スポーツに参加したことのある群はその頻度に関わらず、いずれも6ヶ月後にはW尺度が有意に改善されていた。スポーツプログラムへの参加によって身体を動かす事が、開放性を高め、自発性や意欲の向上をもたらし、スムーズな課題遂行へとつながったものと思われる。また、スポーツにはそれぞれ決められたルールがあり、それに基づいた行動をとっていかなければゲームなどは成り立たない。明確なルールの中で自分の役割を見通すことによって課題遂行能力の向上および社会性の獲得が得られるものと思われる。また、スポーツでの取り組みは行為の結果が比較的すぐに現れやすいために主体的に課題に取り組み、積極的に挑戦していくことができるのではないかとも考えられる。
 ただし、今回の対象者の臨床的背景には罹病期間に有意な差がみられ、スポーツ無参加群において罹病期間が有意に長かった。この点は今回の結果を解釈する上での今後の検討課題と言えるであろう。すなわち、スポーツ無参加群においてはもともと長期にわたる罹病が活動性を低下させ、意欲の低下、興味の喪失をもたらしていた可能性があり、こうしたスポーツ無参加群におけるより重篤な陰性症状が、スポーツへの参加を困難にするとともに、LASMIにおけるW尺度の改善の悪さの原因にもなっていた可能性は否定できないからである。スポーツが実際にW尺度の改善に結びついていたとより明確に結論づけるためには、今後罹病期間を統一した上で再度検討する必要があろう。
 さて、スポーツ参加によって「就労能力の不足」を示すW尺度の改善は認められたものの、今回の結果では実際の就労促進においての有意な差はなかった。LASMIではかられる課題の遂行能力が現実で必要とされる作業能力に単純にそのまま反映されるというわけではないということであろう。また、「就労」を現実的にすすめていくには、課題遂行能力だけでなく、病状の安定、対人関係能力、日常生活能力などその他全般的な能力も要求されるうえ、雇用状況などとも絡んでくる。W尺度の改善のみで、就労に結びつくことは現実的に難しいと考えられる。しかし、他の尺度との改善とともにW尺度の改善が得られることで、将来的な就労援助につながり得るのではないかと思われる。
 先に示したふたつの症例で就労という形での社会参加が得られたのは、スポーツプログラムへの参加を通して全般的な能力の改善が認められたことがひとつの要因とも考えられる。2症例とも過去にそのスポーツを行っていたことがあり、スポーツの経験がある事や好きである事が来所動機となり、慣れない集団への導入や通所安定をもたらした。症例1では、はじめは人との関係がぎこちなく、場に適切な言動がとれずに自信もなくしていた患者が、スポーツの中で自分に適した役割をみつけ、それにもとづいた行動をしていくうちに徐々に安定、人との関係も改善されてきたことが自信ともなり、就労へとつながったものと推察される。症例2では、スポーツという媒介があることが、人との間の緊張を緩和し、継続来所につながり、日常生活の大きな改善、対人関係の向上をもたらしたと考えられる。いずれの症例も他者からの受け入れに伴って自信を取り戻し、人との自然な関わり方を身につけ、自分から社会との関わりをもとうとする意欲が高まったのであろう。スポーツを通して積極的に課題に挑戦し始め、自主性が育まれると共に、次のステップに進んでいくことが可能となった。スポーツの得意な人や経験のある人にとって、その積極的な関わりや能動性は現実的な適応にも広がる可能性を含んでいることが示唆されている。
さて、今回の研究では、D、I、R各下位尺度においては、スポーツ参加の有無に関係なく、全群ともに有意な改善は認められなかった。しかし、渡邉ら(2002)12)の研究では、1年間デイケアに継続通所した精神分裂病患者に、D、I、R尺度の有意な改善および改善傾向が認められており、今回の分析に用いた6ヶ月という短い期間では、これらの尺度での効果がみられなかった可能性も考えられる。「日常生活」、「対人関係」、「自己認識」は短期間での改善は難しく、ある程度継続した治療やリハビリテーションプログラムが必要であると推察される。しかしながら、スポーツプログラムへの参加がW尺度での短期間の改善をもたらしたように、スポーツ以外のプログラムへの取り組みによって、他の下位尺度でも改善が促される可能性も考えられる。
本研究では、精神科デイケアにおける治療効果をみるためにスポーツプログラムをとりあげ、その効果が確認されたが、今後は様々なプログラムの効果を検討していくことが望まれる。それにより、デイケアにおいて個人の障害にあった、より有効な治療計画が立てられるようになることが期待される。

まとめ

精神科デイケア通所中の精神分裂病患者にスポーツプログラムを実施することが、社会生活能力の改善及び社会参加の促進においてどのような効果があるかを検討した。社会生活能力の評価にはLASMIを用い、社会参加は就労状況を調査し、分析した。

1.デイケア通所中の全患者にE尺度(持続性・安定性)において改善がみられた。

2.W尺度(労働・課題の遂行)において、スポーツプログラムに参加していない患者は6ヶ月後の改善が認められなかったのに対し、スポーツプログラム参加している患者には有意な改善が認められた。

3.D尺度(日常生活)、I尺度(人間関係)、R尺度(自己認識)には有意な変化はみられなかった。

4.スポーツプログラム参加の有無によって、就労状況に有意な差および改善は認められなかったが、一部患者ではスポーツプログラムが就労において有効な役割を果たした。
 本稿を終えるにあたり、本研究に御協力いただいた福智クリニックデイケアスタッフならびに外来スタッフの皆様に心から感謝いたします。
 なお、本研究の要旨は第7回日本デイケア学会(2002年9月19日,水戸)で報告した。


文献

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