抄録:入院病床を持たない外来のみの精神科クリニックにおけるデイケアの効果を,デイケア入所前後のLASMI(精神障害者社会生活評価尺度)と1年あたりの入院日数の変化から検討した。対象は平成14年4月現在,デイケアに登録していた通所者のうち,入所期間が半年以上になる94名である。生活能力は各対象者が当院デイケアに入所した時点でのLASMIと平成13年10月より平成14年3月の間に評価したLASMIを用いた。その結果,LASMIにおけるD(日常生活),I(対人関係),W(労働または課題の遂行),E(持続性・安定性),R(自己認識)各サブスケール得点においてデイケア入所時と入所後では有意に改善が見られ,デイケア入所後はデイケア入所前に比較して1年あたりの精神科入院日数が有意に減少していた。これらの結果からデイケアの役割と今後の課題について考察した。
Keywords: Psychiatric clinic, Psychiatric day care, Life Assessment Scale for the Mentally Ill(LASMI) ,はじめに
精神科デイケアは,通所者が病棟から社会へと生活の場を移行していく上でのリハビリテーションを目的とした中間施設として位置付けられている。入院治療から社会復帰を目指す際には,発病前に培ってきた生活能力の低下,あるいは発病による社会性獲得の過程の中断が大きな問題であり,また,再発の繰り返しやすさが地域社会での生活への移行を困難にしている。従って精神科デイケアでは,社会復帰を目指す通所者の病状の安定と社会で生きていくための生活能力の回復・習得が大きな目標となる。精神科デイケアはその為の有効な手段として期待されている。
精神科デイケアの効果についての報告はこれまでに本邦でもなされている。デイケアを利用することで生活能力が改善されたとする報告10)12) 14)や,再入院率が低下するという報告2) 8)も見られる。しかし,これらの報告のほとんどが病床のある精神科デイケアによるものや,保健所デイケアによるもので,病床のない精神科クリニックからの報告が見当たらない。施設の形態によってデイケアの特色も異なってくるであろうから,様々な形態の施設での研究の蓄積も重要となるだろう。
そこで本研究では病状の安定を入院期間という視点から,生活能力を精神障害者社会生活評価尺度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill,以下,LASMI)という視点から捉え,病床を持たない外来のみの精神科クリニックにおけるデイケアの効果と今後の課題の検討を行った。考察
デイケア通所後,通所開始時と比較して,LASMIに示される生活能力全般の有意な改善が確認された。LASMIサブスケールのうち,Eを除くD差,I差,W差,R差とCPZ差との相関が認められなかったことから,これら4サブスケールの改善は投薬量とは独立であることが示された。
今回の結果は,外来治療群との比較において精神科デイケア施行群のみでIとEが改善したという大山ら10)の報告と一致しており,外来治療とは独立したデイケア独自の効果の存在を支持していると考えられる。精神科デイケア施行群のみでEが改善したという結果と今回の結果を考慮すると,デイケアで社会適応レベルの改善が得られたメンバーのCPZ量は減らしやすいと言うことができるかもしれない。通常,デイケアスタッフは通所者が1日来所すれば6時間もの間,関与しながらの観察を行うことが可能である。従って診察を情報収集の中心としている医師はデイケアでの様子を知ることにより,より多くの情報を得ることができる。またデイケアスタッフも医師による指導・指示を得ることができ,より適切な通所者への対応ができる。E差とCPZ差の相関関係はこうしたことを示唆しているものと思われる。
通所者はデイケアという居場所と出会い,通所することで,多様な職種のスタッフや悩みを同じくするメンバー,年齢,性別とも多様なメンバーなど,様々な人間関係を自然な形で経験することができる。様々な関わりの中で,一人で悩む時間を過ごすことが少なくなり,悩みを他者と共有することを通じてよりよい人間関係を形成し,自分の立場を相対化し,現実と噛み合った認知が働くようになると考えられる。一方,デイケアでは生活技能やコミュニケーションの改善を図るためのプログラムや趣味や運動のプログラム,課題を与えられるプログラムなど,様々なプログラムに参加することも出来る。プログラムを通じて物事を達成したり,自己を表現する喜びを感じることは,現実と結びついた形での適切な自信や自尊心を回復するきっかけにもなると考えられる。都市型のデイケアならではの社会資源を用いたプログラムにも参加できる機会も少なくない。こうしたプログラムはデイケア以外の社会に出て行くための準備性を高めるのではないかと思われる。また,逆にこうしたプログラムへの参加を強制しないことで,無理のない利用の仕方も可能である。それぞれの利用の仕方が受容される場であると言うことができる。受け入れられるという体験は心身の英気を養うことにつながると考えられる。多くのメンバーにとって,こうしたデイケアの特性は,通所するに足る魅力となっても不思議ではない。
このようなデイケアの利用を通じて自宅から外に出るきっかけをつかみ,引きこもり昼夜逆転しがちな日常生活の改善ばかりでなく,人間関係,課題の遂行,持続性・安定性,自己認識とLASMIのサブスケール全般にまたがるような生活能力の改善につながっていったのではないかと考えられる。ただデイケアにおいては,プログラムに参加するのかしないのか,また,どのようなプログラムに参加するか,参加しないのならばどのように過ごすか,などデイケアの利用の仕方によってLASMIにおける改善に違いがあると推察される。村手ら9)は精神神科デイケアにおけるスポーツプログラムがWの改善に寄与していると報告した。今後,より有効なデイケアの運営を実現できるよう,プログラムやデイケアの利用形態に関する研究が行われることが望ましい。
一方で,入院病床を持たない外来のみのデイケアの最たる目的に,精神科入院を防止することが挙げられる。今回の研究で,デイケア入所後,入院期間が有意に減少していることが示された。デイケア入所前後の入院日数の変化とLASMIの改善の間に相関関係が認められなかったことは,必ずしも生活能力の改善から入院日数の減少を説明することはできないことを示唆しており,デイケアには生活能力の改善以外にも入院・再入院を回避するために役立つ別の機能があることが推察される。
精神科病院退院後の行き場のなかった長期入院患者や回復期にある患者が,デイケアという場を知ったことで退院のきっかけを持つことが出来,そして実際通所することで安定した社会生活に結びついていったことが再入院減少の要因の一つと考えられる。都市型の精神科デイケアは家族の生活の場との距離が短く,通所しやすいために医療行為やデイケアからのサポートを受けやすい。これに加え,社会資源に恵まれているため社会に参加しつつあるという実感が得やすい面があると考えられる。そのためメンバー自身に再入院への抵抗感が生まれ,デイケアへの積極的参加へと繋がる場合があるのではないだろうか。また,通所者が危機的な状態や状況に陥っても,デイケアは入院施設ほど保護的な機能を持たないとしても,1日6時間利用可能な安全基地としての役割を果たしていることも考えられる。デイケアスタッフによる危機介入的なかかわりも可能である。さらに通所者の言動や状態像などの情報が迅速に把握できるため,医師とデイケアスタッフの連携によるサポートが行いやすい。これらも再入院減少の要因と考えられる。
今回の結果は,精神科デイケアに再入院抑止効果があるという浅野2)や武田ら11)の結果とも一致している。ただ,浅野の研究対象は1年あたりの入院月数の平均が2.3ヶ月であり,本研究の28.5日と隔たりがあるのは,より軽症者を対象とした外来のみの当院のデイケアにおいて、一層の入院期間の短縮効果が認められたためではないかと推測した。ただ今回の研究では,対象をデイケア通所者に限定し,外来のみの治療群との比較は行えなかった。今後,このようなデザインで都市型のデイケアにおける再入院防止効果の研究が行われることが望ましい。
また,訪問看護の果たしている役割もあると考えられる。スタッフが自宅に出向くことにより,利用者とスタッフの信頼関係がより形成されやすく,利用者はデイケアでは話しにくい話題に触れることができる。生活上の不安を軽減するための助言等により,地域での生活が送りやすいものとなり,このことが間接的に生活能力の改善や,特に再入院抑止の要因になっているのではないかと考えられる。また,当院では家族会を毎月1回と頻回に開催しており,このことが果たす役割もあったかもしれない。家族は家族会における勉強会に参加することで疾患に対する理解,特に急性増悪の兆候への対応の仕方を身に付けることが可能である。フリートークに参加することで家族も自分だけが悩みを抱えているのではないということに気付いたり,悩みを共有することも起こってくる。こうした会の積み重ねにより,家族や通所者をとりまく環境が徐々に変化し,入院期間の減少に寄与する要因になったのではないかと考えられる。このように訪問看護や家族会の果たす役割,デイケアなどの精神科におけるサービスとの相乗効果があったと考えられるが,これらについては今後,研究を重ねて実証していくことが必要である。
このように都市型のデイケアにおいては,生活能力の向上に働きかける機能と再入院防止を含む疾患に働きかける機能の両方があると考えられる。しかし,通所者がより効果的にデイケアを利用できるためには考えなくてはならないことがある。デイケアへの導入がスムーズであること,デイケアの機能をバランスよく本人にあった形で利用できること,である。そのためにも多くの通所者が自分の持ち味を発揮できるような,デイケアのコーディネートが重要であろうかと思われる。メンバー同士やスタッフのサポートもよりスムーズかつ適切に行われることが必要である。こうしたことを通じて生活能力の改善が起こり,病状悪化に対しても早期の介入を可能にし,再入院の抑止につながると考えられる。これらを実現するために,デイケアスタッフはメンバーのニーズに耳を傾け,直接的なサポートを行うのみならず,デイケア集団というツールを用いてメンバーがよいかたちで生き生きと持ち味を発揮でき,益する所のあるような状況設定を考え,プログラムを開発していくことが大切なのではないだろうか。
一方では社会適応能力が高まってきたメンバーに対しては,LASMIで改善が示されたことをスタッフが認識し,通所者がデイケアから別のそれぞれのふさわしい場所へ移行できるように促していく必要があると考えられる。スタッフがその意識を持つためにも,評価尺度を用いて定期的に評価することに意味があるのではないだろうか。それと同時にメンバーの意思を尊重し,再発の危険性に注意を向けながらも,精神科デイケアが第二のホスピタリズムにつながらないように自戒しつづける必要があると思われる1)。実際,アルバイト等の就労にこぎつけてもなかなか長続きしないことが少なくない。これはデイケア内においては適応できていても,それが社会においてはなかなか通用しないことを示していると推測される。そのような意味で社会に出たときに活かせるような能力を向上させるようなデイケアの設定が求められている。LASMIの評価も基本的にデイケア内の行動観察に基づいている為,評価が直ちに社会生活上の指標となるわけではない。ここに今回の評価の限界があると考えられる。現在のデイケアの基準では6時間の施設内での実施が必要な為に困難であるが,デイケアに参加しながらプログラムの一つとして地域社会に出て就労したりボランティア活動をしたり,社会資源を有効に使うデイケアが考えられるのではないだろうか。そして半分社会に出た状態での評価というものが実際の社会生活をしたときの大きな目安になり,通所者の適性や方向性を考慮するための重要な資料になると思われる。特に都市型のデイケアでは社会資源が近隣に豊富であるために,こうしたことが行いやすいと考えられる。ここに都市型のデイケアの存在意義があるのではないだろうか。もちろんデイケアは中間施設であり,通所者の一生をともにするものとしては位置付けられていない。従ってデイケア退所後,就労やボランティアなどが生活の主になった場合に末永く生活をサポートしていける施設が必要となろう。従って,このような意味においては地域生活支援センターが通所者がデイケア退所後に利用できる最たるもののひとつと考えられる。しかし,病状が悪化し社会生活が困難になった場合でも大半のケースでは,入院施設の無い外来のみの精神科デイケアでも十分対応可能であり,リハビリテーションの核として機能しうると思われる。まとめ
入院病床を持たない外来のみの都市型精神科デイケアに通所しているメンバーの評価を行った。デイケア通所者は入所時と入所後では生活能力が改善され,精神科入院も抑制された。また,メンバーがよい人間関係を経験し,益するところのあるプログラムを経験し,社会で活かしていけるような体験のできるデイケア作りが求められていると推測された。文献
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