平成16年10月に「新興医学出版」より出版された『てんかん-その精神症状と行動』に福智寿彦先生が「偽発作(70ページ〜76ページ)」を報告しています。 要約は以下の通りです。

てんかんーその精神症状と行動
偽発作       
福智クリニック 院長 福智寿彦

    
はじめに
てんかん患者が非てんかん発作である偽発作を示したり、てんかんでない者がてんかん発作と似た偽発作を示したりすることは珍しくない。偽発作を示す患者がてんかんと診断され長期間抗てんかん薬を投与され副作用に悩まされたり、社会的ハンディキャップを受けたり、難治てんかんとして扱われたりすることもある。したがって、てんかん発作と偽発作の鑑別は治療上重要である。鑑別は、発作の出現状況、発作の様態、発作時脳波所見、発作に対する自覚の有無などで判断するが、しばしば困難であり、てんかん発作に偽発作が合併している場合は一層困難である。発作時脳波は有用だが、運動症状を伴う場合はアーチファクトの混入のため判定が難しい。また、しびれなどの自覚的な訴えではてんかん発作であっても脳波異常が現れないことが多く、脳波での偽発作の鑑別の限界もあり、てんかん専門医でも誤診する可能性がある。
偽発作について一般的なことは教科書(1)に譲る。偽発作と思われる発作を確認した時にどう対応したらよいかという点について記す。先ずは、偽発作の定義を示す前にてんかんの定義を示す。
「てんかんとは、種々の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、大脳のニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見が伴う。」つまり脳炎や頭部外傷、熱性痙攣、薬物中毒関連等の発作症状はてんかんではない。Wyllieら(2)は「偽発作は、心因発作またはヒステリー性発作ともいわれ、成人ならびに小児にもみられ、非てんかん発作ともいわれる」と述べている。てんかんにヒステリーが合併することは昔からいわれており、Charcot は「ヒステロ エピレプシーhysteroepilepsie(1874)」と記述している。てんかんと異なる発作症状を偽発作というかというとそうではない。LiskeとForsterらは(3)初めて偽発作pseudoseizuresという用語を示し、これらは「変わった行動の突発的なエピソードであり、一見てんかん発作に似ているが、てんかんに特徴的な臨床的、脳波学的特長を欠き、生理学的原因を持たない」と定義している。つまり、てんかんと明らかに異なる発作症状は偽発作ではなく、「てんかんと似ているが異なる発作を偽発作」と診断するとしている。
真のてんかん発作と合併する偽発作もあり、真のてんかん発作と合併するもののみ偽発作と呼ぶ立場もある。

偽発作の臨床的特長と患者特性
 @ Desaiら(4)の非てんかん発作の鑑別規準が一般的で「てんかん発作と心因性発作の鑑別に有用な   主要診断基準」と「心因発作の疑いがある場合の診断に主として有用な基準」として一覧表に特徴   が述べられているのは教科書(1)に譲る。
 A 軽度の知能障害が認められる症例が多い。
 B 両親からの分離がうまくいっていない・性格的に未熟な傾向が認められる。
 C 発作間欠期の脳波異常の有無は偽発作の鑑別には役立たない。

偽発作診断

(1)症候学
 @ てんかん発作の国際分類(1981) (5)上の発作型との異同の検討が大切。それ以外にも以   下の偽発作のポイントが臨床上重要。
 イ:複雑部分発作様の発作の時、呼名により中断する。
 ロ:複雑部分発作様の発作の時、開瞼を試みると抵抗して強く閉瞼しようとする。眼球は上転している   ことが多い。
 ハ:複雑部分発作様の発作の時、全身を強くゆすると発作が中断され不機嫌になる。
 A 発作時間
   通常のてんかん発作は1分から2分以内で終わる。長時間続くものは偽発作の可能性が高い。
 B 発作症状の常同性
   偽発作は、いろいろな発作パターンを同一症例で認めることが多く、常同性に乏しい。
 C 発作発現の状況因性
   偽発作は状況因性が強く、病院の外来(てんかん専門医のいる外来ではなく他科の外来)、母親の   前、夫の前、家族が発作に対して無関心の時は通勤の電車のホームとか職場が多い。
 イ:ストレスとの関連;ストレスをうまく言語化できない場合、たとえば仕事などでうまくいかずどう   にもならない状況だと本人が判断している時などに起こりやすい。
 ロ:疾病利得;偽発作で通常認められる。発作により家族や友人が本人に優しくなり本人の居心地が良   くなるとか、医療スタッフの手厚い看護が期待されるなど。
 ハ:患者の職業への配慮;職場においては生産性を追及するあまり能力的に劣る人への配慮が欠けるこ   とが多く、知的作業や接客業のような個人の技量に差が出る職場で偽発作が多く、工場等の単純労   働のほうが少ない傾向にある。
 D 抗てんかん薬離脱性けいれんとの鑑別
   抗てんかん薬を減薬する時に起こるけいれん発作は、抗てんかん薬中止後2週以内に起こりやすい。(2)発作時脳波記録
 @ 臨床症状から判断される障害部位と脳波所見が一致するか。
 A 脳波所見の見られないてんかん発作がある。
(3)画像診断
   頭蓋内病変が認められることがありCT、できることならMRI検査も必要である。
(4)偽発作誘発試験
    省略
  
偽発作の治療
(1)真のてんかん発作に合併するものでなければ抗てんかん薬は不必要であり、抗てんかん薬投与が偽 発作を誘発するという報告もある(9)。
(2)抗てんかん薬を漸減除去する。その時、抗てんかん薬離脱性けいれんに要注意。
(3)真のてんかん発作と偽発作の両方を示す症例の治療の困難さは従来から指摘されており(10)慎   重を要する。てんかん発作と偽発作があることを本人、家族に説明し、何がてんかん発作で何が偽   発作なのかを示す。できればビデオを見ながら提示するとわかりやすい。偽発作という防衛機制を   不用意に暴露し突如剥奪してしまうことで逆に偽発作が増えたりその他の精神症状が出現する危険   性がある。そのため偽発作に対しては、抗てんかん薬によるてんかん発作の治療に加えて、ほかの   治療が必要だと支持的に告知する。告知の仕方は偽発作の治療の大切なポイントであり、症例の状   態、治療上の必要性において柔軟に対応する必要がある。偽発作が誘発法により誘発された症例は   全例において治療効果を認め偽発作の頻度が減少したり消失したりしている(6)。主治医として   も自信を持って診断でき、それが治療効果に繋がる面も考えられる。
(4)受容的な態度で接する精神療法。
(5)疾病利得がある場合は、環境調整が必要。特に家族との人間関係の調整は重要である。職場への配   慮、他の医療機関との連携治療、救急隊員や駅の乗務員らとの情報交換も必要である。

まとめ
(1)偽発作鑑別のための工夫と努力(上述)
(2)鑑別困難な場合
   抗てんかん薬投与は慎重に開始し、発作症状や精神症状の有無・経過に留意すること。
 イ:抗てんかん薬は単剤使用。
 ロ:抗てんかん薬治療開始時の発作症状と抗てんかん薬開始後の治療再検討が必要。
 ハ:抗てんかん薬治療開始時以降に新たに出現した発作症状の検討が必要。
 二:一旦開始された抗てんかん薬治療は、発作症状やてんかん性脳波異常の消長を考慮して再検討が必   要。特に、幼少期から治療が始まった場合には、学齢期に達した時が重要な再検討時期。
 ホ:脳波異常のみを理由として、長期的に不必要な抗てんかん薬治療を続けるべきではない。一般的に   発作が長期間消退すれば、脳波所見を考慮しながら抗てんかん薬の減量あるいは停薬を試みること   も重要。
(3)偽発作の場合
   偽発作だからといって治療が必要ないのではなく、偽発作としての治療が大切であり受容・支持し   ていくことを患者本人並びに家族に説明する。
(4)真のてんかん発作と偽発作が合併する場合
   てんかん発作が十分にコントロールされると偽発作が自然軽快・消退することがある。てんかん発   作型の確定と薬剤選択の工夫が重要。

(1) 鈴木二郎、山内俊雄:臨床精神医学講座第9巻てんかん。中山書店、東京、1998
(2) Wyllie E, Friedman D, Rothner AD: Psychogenic seizures in children and adolescents. Pediatrics; 85: 480-484, 1990
(3) Liske E, Forster FM: Pseudoseizures; a problem in the diagnosis and management of epileptic patients. Neurology; 14: 41-49 1964
(4) Desai BT, Porter RJ, Penry JK: Psychogenic seizures: A study of 42 attacks in six patients, with intensive monitoring, Arch Neurol 39: 202-209, 1982
(5) Bancaud J, Henriksen O, Rubio-Donnadieu F, Seino M, Dreifuss FE, Penry JK: Proposal for revised clinical and electroencephalographic classification of epileptic seizures: From the Commission on Classification and Terminology of the International Leage Againt Epilepsy. Epilepsia; 22: 489-501 1981
(6) 福智寿彦、牧野賢二、加藤昌明、石田孜郎、大沼悌一、寺田 倫、平井茂夫、新垣 浩、穴見公隆: 生理食塩水静脈注射による疑似発作の誘発法。てんかん研究 15(2): 100-109, 1997
(7) Abbott RJ, Browning MC, Davidson DL: Serum prolactin and cortisol concentrations after grandmal seizures. J Neurol Neurosurg Psychiatry; 43: 163-167, 1980
(8) 中條節男: 精神的緊張が誘発したと考えられる精神運動発作の1例。臨床脳波15: 593, 1973
(9) 福智寿彦、石田孜郎、加藤昌明、大沼悌一: 抗てんかん薬の長期服用に到った非てんかん7症例−特に治療開始後の経緯とその後の経過について− 脳と神経47(3): 239-244、1995
(10) 大原 貢、工藤 勉:てんかん発作とヒステリー発作のKombinationについてーその治療抵抗の問題を中心にー 精神医学14:229-236、1972