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はじめに
近年、risperidone(RIS)をはじめとするいわゆる非定型抗精神病薬の統合失調症治療における有用性はほぼ一般に認知されたと言って良い状況であるが、本邦で発売されている非定型抗精神病薬4剤を例にとっても、それぞれの薬剤プロフィールの相違については未だ検討の途上である。その中でも特に、D2受容体と5-HT2A受容体遮断作用を有する点において共通し、ともにserotonin dopamine antagonist(SDA)と呼ばれているperospirone 1) (PER)とRIS 6) の相違に関しては、PERが本邦で開発され、世界的には注目されることが少なかったことも相まって、特に臨床的なデータの蓄積が不十分な状態が続いている。しかしながら、特に不安・抑うつ症状に関しては、RISよりPERにおいてより改善する傾向が多かったとする報告が散見されており 2),9) 、非定型抗精神病薬の先駆けであるRISにおいて注目されているawakening現象と統合失調症の不安・抑うつを関連させて論じている論文などを念頭におくと 8),11) 、この相違は臨床上重要である可能性がある。
今回われわれは、両剤の臨床的な違いを明らかにしたいと考え、外来通院中の統合失調症患者において、それぞれの薬剤が単独で投与された症例を選択し、1年間経過観察を行い、Lindenmayer 7) 、またそれと極めて類似した山科らを 12) 参照してPANSSの5つの下位分類に関して前後を比較した。
考察
統合失調症の外来治療において、精神症状をいかに良好にコントロールし、長期間にわたって寛解状態を維持できるかが重要である。今回、われわれは、外来の統合失調症患者に対して単独の抗精神病薬を投与し1年間経過の観察をおこなった。山科らの分類を用いて、PANSSを5つのクラスターに分類した場合、PER群では、「陰性症状」、「妄想/現実曲解」、「興奮/緊張病症状」、「認知・思考障害」、「抑うつ/不安」の全てのクラスターで有意なスコアの低下が認められた。RIS群では、「陰性症状」、「妄想/現実曲解」のクラスターで有意なスコアの低下が認められた。PERの認知機能に対する影響について、笠井らは、 3) 12例の統合失調症患者において従来薬からPERに切り替えたところ、単語記憶の体制化が改善したことを報告している。また、小島らは 5) 感覚運動情報制御機構の客観的指標とされるプレパルス・インヒビション(PPI)がペロスピロンへの切り替えにより改善した統合失調症例を報告している。このような報告では比較的短期間の経過観察でPERによる認知機能の改善作用が報告されている。こうした結果は、今回、われわれが行った1年間の経過観察で認められた、「認知・思考障害」のクラスターの改善と一致する結果であった。
非定型抗精神病薬で認められる認知・思考障害の軽減の薬理学的背景には、さまざまな機序が想定されているが、Kapurはquetiapineやclozapineは、ドパミンとの競合において分子レベルでD2からの解離が早くそのことが、急性の錐体外路症状の発現の低さや、陰性症状や認知機能障害の改善に関連しているとの仮説を提唱している。武田らは 10) 、プロラクチン反応を指標とした研究でPERのD2阻害作用が短期的であることを指摘しており、このことがPERの認知機能の改善に関係していることも考えられる。
また、抑うつ症状への効果については、木代 4) のごとく5-HT1A受容体への親和性の高さを指摘する報告が多いが、症例報告が多く今後の研究の進展が期待される。
本研究におけるPER群と、RIS群の差異については、無作為割付でなく、患者背景(性別、年齢等)、薬剤投与前のPANSSの各項目の平均値などに相違があり、単純に薬剤の薬理作用の違いと結論づけることはできないことは考慮に入れておく必要がある。この点については今後より厳密な方法を用いての再検必要であるが、少なくともPERが、12か月間の継続投与によりRISと同等の効果を示したことは確実である。
なお、薬剤性錐体外路症状を評価するDIEPSSのスコアは両剤とも12カ月後には有意な変化を示さなかった。PERの1日平均投与量は、12カ月後で11.9±7.6mg、RISの1日平均投与量は、12カ月後で2.7±2.6mgと統合失調症に対する投与量としては、低く、錐体外路症状も少なかったと考えられた。
参考文献
1)大野 行弘:新規精神分裂病治療薬ペロスピロン(ルーラン)の研究開発 日薬理誌118:39-42,2001
2)藤田 和幸 兼本 浩祐:Risperidoneをperospironeに変更した33例の分裂患者における経験―慢性期分裂病におけるSDAからSDAへの切り替えの可能性、臨床精神薬理、5:375-382,2002.
3)笠井 清登 荒木 剛 山末 英典他:統合失調症におけるperospironeへの置換による認知機能の変化 精神薬療研究年報 36:140-144,2004
4)木代 眞樹:Perospironeへの切り替えによって統合失調症後の抑うつ症状(Post-schizophrenic depression)が改善した2症例とperospironeにparoxetineの追加投与により統合失調症後の抑うつ症状が改善した1症例 臨床精神薬理 8:1455-1461,2005
5)小島 照正 伊藤 千裕 松岡 洋夫:Haloperidolからperospironeへの切り替えによって慢性統合失調症患者のprepulse inhibitionが改善した1症例 臨床精神薬理 8:1443-1447,2005
6)Leysen JE. Janssen PM.Megens AA.et al: Risperidone: a novel antipsychotic with balanced serotonin-dopamine antagonism,receptor occupancy profile,and pharmacologic activity J.Clin.Psychiatry,55(suppl5):5-12,1994
7)Lindenmayer JP.Grochowski S. Kay SR. et al: Schizophrenic patients with depression: Psychopathological profilesand negative symptoms.
Comper Psychiatry 32:528-533.1991
8)三宮 正久 勝 久寿 中山 和彦:初発統合失調症の未治療例に対するrisperidoneの臨床的検討―経過中にみられる「不安」に注目して― 精神神経学雑誌、105;643-658,2003
9)住吉 秋次:perospironeの外来症例に対する臨床評価―Risperidoneとの比較 臨床精神薬理,6:895-904,2003.
10)武田 俊彦 羽原 俊明 佐藤 創一郎:PerospironeとrisperidoneのD2阻害作用の日内変動‐血清prolactin変動を指標にして‐ 臨床精神薬理 7:1511-1517,2004
11)田中 謙二 藤井 康男:Awakenings(めざめ現象)と非定型抗精神病薬への切り替え 臨床精神薬理,2;859-866,1999
12)山科 満 林 直樹 五十嵐 禎人他:精神分裂病の症状構造.PANSSを用いた因子分析的研究 精神医学 40(9):951-957,1998
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