第94回家族会

平成20年8月8日
福智 寿彦

『法律と精神障害』

1.精神障害者への考え方の基本

◇精神障害者の人権

・ポリス・パワー 警察権力
 精神障害者の社会に与える脅威ないし危険性を除去
・パレンス・パトリエ パターナリズム
(温情主義、父権主義、保護主義)
 障害者は自ら決定する
 能力を欠くから本人に代わって社会が治療法を選択決定する

・1963年ケネディ一般教書で「アメリカの精神医療は国としての良心を悩ます」として強制入院の根拠が問われ、障害者の人権が脚光を浴びる。その後、ポリスパワー思想を基礎として、強制的に診療ができるのは、患者が社会的に危険であるという危険性基準を基礎として、精神障害者の精神病院からの解放を促進した。

◇我が国において

 我が国においても昭和40年代後半から強制的入院は精神障害者が適正手続のもとに社会的危険性が認定される場合に限られるとする見解が出てきた。しかし、憲法25条が健康権を保障すると定めることに対して、社会的適応能力を十分有しない精神障害者、つまり治療の必要性を認識できない精神障害者に対してその健康権を保障し福祉を図る見地から、一定の強制権限に基づき医療保護を加えることが必要との見解から精神障害者の自由を制限することは憲法の人権規定に抵触しないと考えることが主流で処遇については日本は立ち遅れていた。

 医療保護入院は「指定医の診察の結果、精神障害者でありかつ入院の必要があると認めた場合は保護者の同意に基づき本人の同意がなくてもその者を入院させることができる」制度。措置入院は「2人以上の指定医の診察の結果を経て、そのものが精神障害者であり、かつ医療及び保護のために入院させなければその精神障害者自身に傷をつけ他人に害を及ぼす恐れがあると認めることについて各指定の診察医の結果が一致した場合」に入院させることができる法律。

◇日本における精神医療関連法規の歴史

 桓武天皇の時代(759年)に編纂された我が国の最古の医学書「薬經大素」に精神症状の記載あり、この時代に精神の異常が薬物による治療の対象であるといった考え方があった。702年の大宝律令には、「精神の重い障害のある者が犯した犯罪に対しては罪を減じ、その供述を証拠と認めない」といった規定があった。

・1873年(明治6年)東京番人規則29条で路上の狂癲者を発見したら取り押さえて警部の指揮を受けることの法律。
・明治11年、私宅監置の制度化。
・大正8年精神病院法公布 私宅監置やめ医療重視に改める法律、戦争勃発により効果なし
・昭和25年精神衛生法公布 私宅監置禁止 都道府県に精神病院設置義務 医療保護の申請
・昭和39年3月24日 駐日アメリカ大使ライシャワーが精神障害者に刺される事件契機に昭和40年精神衛生法改正 措置入院新設 精神衛生審議会設置 通院公費負担制度
・昭和62年精神保健福祉法成立 宇都宮病院事件(昭和59年)入院患者が看護職員の暴力により死亡
 自由入院の制度化 入院患者の権利保護規定新設 社会復帰事業を行う
・平成7年精神保健福祉法 福祉政策の位置づけ 社会復帰政策の強化(生活訓練施設、授産施設、福祉ホーム、福祉工場) 精神保健指定医

2.司法精神医学と犯罪

◇恐怖のイメージが独り歩き

・1990年 丹羽代議士事件
 →精神科開放病棟に入院中の患者さんが刺殺。
 →国務大臣が「野放し」発言。関係者への逆行への懸念。
  人権か事故防止か。

◇野放し論の間違い

・「精神病が重いほど、犯罪の危険性が高い」は間違い
・社会を騒がす犯罪の犯人は、奇行はあったにせよそれなりに社会で生活していた人。
・精神病よりも性格の偏りである人格障害
 ある程度の能力を持つ反面対人関係が不安定で深刻な葛藤という火種を抱えている人

◇精神障害者の犯罪は増えている?

・犯罪白書によれば1995年以降、
 824人→849人→735人→622人→599人と減少傾向
  ⇒ 犯罪は減っている!

◇統合失調症による犯罪の実態

・統合失調症者が殺人・放火を犯す危険性は一般人より高い
  → 殺人6.5% 放火6.3%
・暴力犯罪 一般人より4倍高い

◇裁判員制度の影響は?

・平成21年春から裁判員制度始まる
・今のところ地方裁判所だけで高等裁判所ではない
・20か所で同じ精神鑑定書を使って模擬裁判
  → 求刑12年に対し無罪から懲役14年とばらつき
・裁判員制度の裁判は1年間で3500件くらい
 その中で責任能力が問題とされ精神鑑定される数は100件くらい
・被害者の家族が「精神疾患によって自分の子供が殺されたのではない」「殺したのはAさんで、病気が子供を殺したのではない」という意味のことを証言された方がいた。このような言葉があれば裁判員は感情・情緒のレベルで刑罰化を促進する方向に動くのではないだろうか

   次回、平成20年9月12日金曜日 午後6時から